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「AI 病⾍害画像診断 API 」
開発者インタビュー

AI 病⾍害画像診断 API とは

AI病虫害画像診断APIは、農林水産省委託プロジェクト「AIを活用した病害虫診断技術の開発」および内閣府官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM) 「農業データアグリゲーションスキームの構築及びそれを活用した病害虫診断AI技術開発の加速化」によって、法政大学、株式会社ノーザンシステムサービス、および農研機構が開発した病虫害判定器と接続するWAGRI APIです。

本APIは、撮影された病虫害写真を受け取り、AI病虫害画像診断システム(病虫害判別器)が解析して診断結果を提供します。

AI病虫害判別器を公開中
図1. AI病虫害判別器を公開中(農研機構 農業情報研究センター 山中武彦氏 提供資料より)

WAGRI会員の民間事業者(ICTベンダー)は、本APIを利用して病虫害診断サービスやアプリケーションを構築することができます。生産者などエンドユーザーは、この民間事業者の病虫害診断サービスやアプリケーションを利用して、自身で撮影した病虫害写真に対する診断結果を得ることができます。

診断のためにエンドユーザーから送信される画像データは蓄積・活用され、病⾍害判定器(AI)の改良へと繋がります。より多く利用されることで画像判別の精度向上が可能となるスキーム(データアグリゲーション)により、継続的に診断精度が向上します。

データアグリゲーションスキームにより診断精度の継続向上
図2. データアグリゲーションスキームにより診断精度の継続的向上 (農研機構 農業情報研究センター 山中武彦様 提供資料より)

農研機構では、社会ニーズの高い園芸作物や果樹、野菜の主要病虫害を対象とした判別器の開発を順次進めており、トマト・キュウリ・イチゴ・ナスの4作物の病虫害判別器から先行してAI病虫害画像診断APIとしてWAGRIで公開されています。

WAGRI API として会員の民間事業者(ICTベンダー)へ本APIを公開することで、迅速な生産現場への社会実装が可能になります。

また自社システム構築を検討する民間事業者を対象に、本APIを用いたデモアプリケーションの開発・公開などの取り組みも行っています。

今回は、これから活用が期待されているこのAI 病虫害画像診断API開発に携わった方々にインタビューを行い、本APIが作られた背景や経緯、仕組み、導入するメリット、今後の展望などをお話しいただきました。

お話をうかがった方々

山中 武彦(やまなか たけひこ)氏

所属:農業情報研究センター AI研究推進室
確率モデルユニット ユニット長

岩﨑 亘典(いわさき のぶすけ)氏

所属:農業環境研究部門 土壌環境管理研究領域
農業環境情報グループ グループ長

桂樹 哲雄(かつらぎ てつお)氏

所属:農業情報研究センター データ研究推進室
主任研究員

AIを利用した画像判別の発展と簡便な病虫害診断が開発の背景

—— まずは、AI病虫害診断API開発の経緯・背景などについてお聞かせください

山中:平成24年(2012年)に、農林水産省のプロジェクト「AIを活⽤した病害⾍診断技術の開発」がスタートしました。これは24府県、法政大学、株式会社ノーザンシステムサービス、株式会社NTTデータCCS、日本農薬株式会社などとコンソーシアムを構成してAIで病害虫を診断するという大きなプロジェクトです。

私自身は、この農林水産省のプロジェクトに対する「官民研究開発投資拡大プログラムPRISM(プリズム)」に令和元年から参画して、WAGRIを通じたAPIの公開という部分を担当いたしました。

岩﨑:元々の委託プロジェクトでは、AI病虫害画像診断システムを社会実装するための民生用アプリケーション開発を進めていました。AI病虫害画像診断システム開発で、非常に良い成果が得られたため、さらにWAGRIを活用してより多くの方に使っていただいて社会実装を加速するため、WAGRI APIの開発が始まりました。

—— 社会実装の加速が必要な背景をお聞かせください

図3. AI病虫害画像診断システムの開発 (農研機構 農業情報研究センター 山中武彦様 提供資料より)

山中:政府の農業デジタル(DX)化に関する基本方針が背景にあると考えています。このAI病虫害診断開発に関しても、農業のDX化を強力に推進したいという政府の意向に沿ったものであり、その第一歩になるという考えではないかと思います。ですが、農業DX化と一言で言っても、実際にデータを集める、そして活かす仕組みに関する部分は未整備の状態でした。

例えば、このAI診断デジタルツールの場合、利用者の方には、データを送信して利用していただくということになります。その過程で自動的にデータが蓄積されますので、そのデータを活用してさらに判別器をよくしていこうと考えています。我々はこの仕組みを農業データアグリゲーションと呼んでいます。本APIが活用されると、この農業データアグリゲーションが効果的に機能し、農業DX化に貢献できるのではないでしょうか。

—— なぜ農業DX化を政府は進めたいのでしょう

岩﨑:農業全体の効率化を求められているのではないでしょうか。自給率を上げるための他、農業従事者の高齢化や人手不足が問題となっています。新規参入者・新規就農者を増やすには、魅力的で簡便でなくてはならない。それらの解決策として農業DX化の推進があると思います。

山中:今の岩崎の話は「農業を守る」といった側面ですが、さらに発展的に農作物の高付加価値化に貢献できる可能性もあります。農産物の輸出品目を強化するという場合にも農業DX化はプラスに働くと思います。例えば、農薬散布の履歴も簡便に正確に残せるようになりますので、農業DX化が進めばより効率的、合理的に減農薬で農作物を生産するといったことが可能になります。いわば、「攻める農業」ですね。

現在12品目の対象作物にて判別可能に

—— 2021年当初APIの判別対象は、トマト、キュウリ、イチゴ、ナスの4品目とお聞きしました。現在(2022年9月)は何品目になっていますか

山中:現在は、全12品目が対象です。先行4品目に、ブドウ・モモ・ピーマン・ジャガイモ・エダマメ・タマネギ・カボチャ・キクの8品目が加わりました。

後から加わった8品目は、生産量の多い重要な果菜類、園芸作物、果樹などです。生産量だけで品目を選定するのではなく、より高付加価値化が可能な作物に絞り込み、総合的に判断して選定しました。

—— データはどのくらい集まっていますか

山中:AI 病虫害画像診断 APIを通じて一般の使用者から投稿されたデータは、現在約1万件です。 判別器の学習元になったデータは岩崎が担当しており、23府県公設試験場と農研機構で収集し、70万件以上の病虫害の画像データが集まっています。
岩﨑:収集したデータは、約70万枚ですが、整理がすんだもの約50万枚について、現在これを無償公開しています。

桂樹:画像診断にはかなりの数の学習データが必要で、判定精度に大きく関わってきます。現在も判別器の性能をブラッシュアップしており、より精度の高い判別器を作るところに力を入れています。

—— なるほど。実際どれくらい精度が向上していますか

農研機構の総力を上げて対象を拡大中(今後)
図4. 農研機構の総力を上げて対象を拡大中(農研機構 農業情報研究センター 山中武彦様 提供資料より)

山中:4作物の判別器は2021年4月に第1回目のAPI公開を行いました。これを今年(2022年)の4月末に第2回目のAPI公開でアップデートしました。

アップデートで葉表以外の果実や花などの病虫害が判別もできるようになりました。また、判別精度が大きく向上した病虫害を挙げると、キュウリのツル割れが40%→71%、ナスのススカビが33%→88%、トマト疫病が32%→83%です。これは学習用画像の追加収集と判別器の改良によるものです。今後はさらにデータを集めつつ、再学習に用いるという段階に進展したいと考えています。

農研機構が運営する「WAGRI」ならではの情報収集力が強み

—— 研究機関である農研機構が提供する「WAGRI」のAPIということは、やはり強みでしょうか

山中:はい。強みは農研機構が中心となってデータを集めたところだと思います。こうした判別器・AIは、データの精度やデータの量に依存するところが大きいためです。
岩﨑が中心となった我々のコンソーシアムでは、農研機構だけでなく府県の多くの専門家が集まり、質の高い学習用画像を合計70万枚収集しました。これがやはり大きなポイントではないでしょうか。

図5. 病虫害診断サービスの強調基盤として貢献 (農研機構 農業情報研究センター 山中武彦様 提供資料より)

AI病虫害画像診断APIは「B to B to C」型の展開モデルです。我々としては判別器の改良に注力し、「ミドルB」にあたる民間事業者にご協力いただいて広く使っていただきたいと考えています。そのためにもできるだけ民間事業者には安価な費用で提供したいと思っています。独自に一から開発する場合に比べて100分の1、1000分の1くらいの費用で使っていただけるのではないかと考えており、これもメリットの一つになると思います。

岩崎:判別システムやプログラム自体ではなく、判別結果を提供できることがポイントだと思います。APIとして判別機能だけを提供しているのは、農研機構の独自性だと思います。

APIとして提供することで、より多くの場面でエンドユーザーが活用できる可能性があることがメリットだと考えています。

—— なるほど。それでは「to C」に当たる部分、エンドユーザーに対して「このように使ってもらいたい」という思いはありますか

山中:APIを実際の農業の中で、ぜひ積極的に活用していただきたいと思っています。我々もエンドユーザーがどんなニーズを持っているかというリサーチを、ミドルBの民間事業者とタッグを組んで実施しています。改良できるところはどんどん取り入れたいですね。

岩﨑:より多くの画像を撮影して使っていただき、実際の声をお寄せいただくことが、今の段階では重要だと思います。例えば、「使いたい方法で使えなかった」というような具体的なフィードバックがあれば、私たちとしてもどこを改善すれば良いのか、とても参考になります。

桂樹:ミドルBとして開発している方々にもぜひフィードバックをお願いしたいところです。2回目のアップデートでは、対象作物を増やし、それに合わせてAPIの数も31個に増え、判定方法も増えました。開発当初の画像診断APIでは「これは何々の画像です」と判定する判定型のAPIだけを提供していましたが、2回目のアップデートでは、「この画像のここには何々が映っています」という検出型のAPIも提供するようになりました。我々としてはより使いやすく、より良いものにしたいということでAPIの数・判定方法の種類を増やしたわけですが、ユーザ向けアプリの開発者の方々から見ると、対応すべきAPI・判定方法が増えたことになりますので、開発者の方々からするとこのアップデートをどのように感じたかなどの声も聞きたいです。

AI病虫害画像診断APIとWAGRIの展望

—— WAGRIの中で、本APIの位置付けについてどうお考えですか

山中:WAGRIは先進的な理念に基づいて設計されており、農業DX化のハブになる可能性があると思っています。メインストリームにもなり得る、大きな可能性を秘めています。その中でAI病虫害診断APIは、農業データアグリゲーション、農業DX化の良い先駆例になると思います。

桂樹:WAGRI APIには専門分野の確度の高いAPIが集まっているということが、すごく良いと思います。WAGRIの会員になれば、例えばこれまで病虫害診断をしたことがない、あるいは農業分野に取り組むこと自体が初めてといった企業であっても、最新の病虫害診断機能やデータを自社で利用できます。画像を送信するだけで判定結果が返ってくるという、専門分野の先端の道具を手に入れられるのです。欲しい人にすぐサービスを展開できるのは非常に魅力的ではないかと思います。

—— ありがとうございました。最後に本APIの今後の目標などお聞かせください。

山中:まずは12作目の精度向上を目指します。当初の4品目に対してはアップデートで精度向上を実現しましたが、追加された8品目に関しても精度向上を目指します。

そのために、利用者から集まってきた画像データをクレンジングして判別器の再学習に役立てるというデータアグリゲーションの確立にも引き続き取り組んでいきます。

(作成・インタビュー)
2022年度 WAGRI WEBサイト改修 委託事業者 (株)ソフトビル

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